壱漆 誕生と再会







いつか言っていたリナリーの言葉が頭に過ぎる。


『ユアン君を生んだのはこの先近い未来なんじゃないかと思ったの。』


彼女の読みは当たっていた。
まさか一年もせずに子を授かるなど誰が思っていただろうか。


「あ…かん坊?本当か…?!」


この自分に愛する者と更に愛する者から子を授かるなど一生自分に体験するとは思いもしなかったで
あろう神田は彼女同様目を丸くさせその場立ち尽くしていた。
アレンは自分の腹部に手を当てると実感が湧かないのか戸惑う表情を見せる。
そんな彼女達以外にも驚くコムイとリナリー。
予測してはいた事だが破壊ばかりのこの教壇に命が芽生えた瞬間を目の前に酷く感動を覚えたのが
リナリーであった。


「あ…アレンくんおめでとう!!すごいじゃない!!!」


リナリーの言葉に追いかける様コムイからも祝福の言葉を送る。


「アレン君おめでとう。まさかこの歳で子を授かるとは僕もビックリだよ。そうするとさっそく今日から産休って
事になるね」
「え…、生んでも良いんですか?だって今公爵が動き出して大変な時じゃないですか!?」
「たしかに今は一人でもエクソシストが必要なのは確かだけど…この命を生むのは今だけだ。神の使徒が
命授かる事は神からの素晴らしい贈り物だと思わないかい?」


大変な時だと分かっていても祝福してくれる皆にアレンの瞳から宝石の様な涙が降下する。
ありがとうと小さな声で連呼しそんな彼女に優しく抱きしめる神田。


「アレン良かったな…ユアンが戻ってきてくれたぞ」
「?!…そっか、ユアンが僕の中に帰ってきてくれたんだね。…ユアンお帰り」


皆から祝福される瞬間を記憶に刻み、アレンが女である事と妊娠、本日から産休の大発表に教団内は
しばし話題が耐えないでいたと言う。




















―それから数ヵ月後。




















「大分お腹大きくなったわね」
「最近頻繁にお腹蹴るんですよ、この子。クスクス」


大きな動きを見せない公爵の合間にアレンからは既に『母』の顔となっていた。
愛しい我が子の誕生を待ち構えて…


「っ…!」
「どうしたの?」
「あ…いえ、今朝からお腹が張るなーって思ってたんですけど昼から何か波がある締め付けを感じて…」
「アレン君…それってもしかして…陣痛?!」


予定ではあと2週間の筈であった。
神田を呼び青い顔のアレンを支え医務室へと移動をする。
以前から担当となっていた女医とお産を手伝う看護師数人は緊急の連絡を受け準備に取り掛かる。
教団の皆までもが緊張に走っている。
立会いに神田も共に医務室へ入り、彼女の手をギュっと握れば励ましの言葉くらいの手伝う事しか出来ない。
だがそれでも傍にいてくれるだけでアレンは安心が出来た。
徐々に痛みが大きくなる中、赤ん坊を取り上げる準備は淡々と進められていく。
用意された布紐を両手に握らされ、苦痛を伴う中アレンの下半身から大量の水が溢れ出て来た。
それは所謂『破水』と呼ばれるものだ。
初めて目にする神田はただ驚きに目を見開くばかり。
破水が起こる事は赤ん坊がいよいよ生まれようとしている事。
懸命に腹部に力を込め、教えられた呼吸方を頑張る。
ただ痛みとの戦い。
この瞬間を見る男達は皆同じ様に考えるだろう、『母は強し』と。
呻き声の中現れる頭部と見られる部分。
これを乗り越えられれば後は一気に取り出せる。


「頑張れ…アレン!」














オ…オギャーオギャー!














汗だくに意識朦朧とするアレン。
人の生まれる瞬間に呆然とする神田。
女医は取り上げた赤ん坊と繋がる臍の緒を手馴れた様に切り取れば「元気な男の子ですよ」と
母子共の無事を伝える。


「や…やったなアレン!よく頑張った!!」
「生まれた…僕達の結晶が…ユアンが…」


産湯をつかせた直に母の元へと戻り、自分の数倍に小さい子供の手を優しく握る。


「お帰り…ユアン」

















●言い訳●
久々の更新でした。 次回こそは最終話となるんでしょうか…?


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