拾 近接する真情







「…誰だ」


気持ちの整理もつかないまま水差された気持ちで扉の向こうにいる存在の正体を問う。


「あの…僕です…」
「!?」


その声の持ち主は自分が今の今まで考えていた少女。
まさかと思った。
何故ならばつい先日の事件でてっきり自分を避けていると思われたからだ。
信じられない喫驚になりながらもこの部屋へ来たという事は、今の状況に漸くこの関係がはっきり結着するという事。
丁度良い、この機会逃せば恐らくもう自分の気持ちは伏せたままに違いないと神田も覚悟を決め、閉ざされた扉を開放する。


「入れよ」
「…あ」


一方のアレンもまさかこうもすんなり入室許可してもらえるとは思っていなかった。
今まで神田の部屋に入った人間など見た事無いというリナリーに聞いた話から、神田本人が人を部屋に入れる事自体嫌いなのかと…。
しかし受け入れてくれた状況に益々アレンの想いは伝える覚悟を堅くする。
言葉に出そうと思えばふと横目に見える植物の存在に先日ユアンが口にした台詞を思い出す。


「これ…もしかしてこの植物が『ハス』なんですか?」
「ん?…あ、あぁ、それがどうした」
「いえ、ユアンから聞いて…。未来での話だったからまさか今から既に育ててたと思ってなくて」
「以外だったか…?」


今気付いた。
普段の彼ならば「お前に関係無い」・「用件はそれだけか」など突き放す様な事ばかり言ってくる筈なのに今の神田は
何故か素直に言葉を吐いている。
「以外ですよ」と言葉を返す代わり、彼の顔をじっと見つめた。


「大切な…花なんですね」


植物を育てる程本当は繊細な人なのかもしれない、実は感情が不器用な人なのかもしれないと一方的責めていた
自分に少し恥ずかしく感じてしまう。
すると神田は一向に進まない状況を進めるべく、ずっと伝えたかった言葉を発する。


「この間は…悪かった」
「え…?」


まさか神田の口からそんな台詞が出ると思っていなかったアレンは驚愕の目でまん丸くなっていた。


「んだよ驚いた顔しやがって、俺が謝るんがそんなに珍しいかよ!?」
「…かなり」
「ちっ、やっぱり言うんじゃ無かった」


いつものらしい神田に戻るものの、やはり慣れない言葉を言う物では無かったと顔を赤くする彼が妙に可愛くて
アレンは「ぷっ」と笑いがこみ上げてくる。


「笑うんじゃねぇよ」
「あははは、ごめ…何か神田が可愛くて」
「…んだよ、可愛いって」


いつもならば怒りを表す所なのだが彼女は作り物でない笑を自分に対して表している。
そう、自分に対して初めて彼女は笑ったのだ。


「…神田?」
「あぁ?何だよ」

「好きです」


彼女は今何を言ったのだろうか?
突如の言葉が理解出来ないと再び彼女は同じ言葉を発する。


「貴方の事…好きです」


二度目同じ台詞を聞けば聞き違いで無い事を理解する。
それでこそ神田も先程のアレン同様驚愕の目で丸くなってしまう。
彼女の方こそ、まさかの言葉を述べると思いもしなかった。
その言葉に触発される様に神田も気付いた想いを少女同様伝えるべきだと喉を振るわせようとする。
しかし…、


「本当は早く気付くべきでした…でも貴方は僕の事嫌いなんですよね?」


神田の気持ちなど知る由も無い彼女は神田に嫌われていると思い込んでいる。
自分こそ彼女に嫌われていると思っていた。
訂正するべく神田は「違う!」と少し大きく発っする声によってアレンはビクッと驚きに彼の顔を凝視した。


「嫌ってなどいない…あの時、泣かせるつもりは無かった。本当はお前の事が…」


『好きだから』

大事な言葉がいざと言う肝心な時に出てこない。
しかしここまで言わせれば鈍すぎる人でなければ気付くであろう。


「もしかして…神田も…?」
「…」


無言は肯定の表れ。
アレンは神田に近づき、視線が外れ赤く染まる頬にそっと手を添えた…。

















●言い訳●
ようやく繋がった二人の気持ち。
タイトルに小難しい言葉を並べてしまいましたが意味としては
『今二人が接近する嘘偽り無い心』
という事を言いたかったんです。
短い字で深い意味のタイトルって何だか好きですv


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