壱肆 想い出












「そっか、神田君と和解したんだね」
「はい、だから残りの短い期間は3人で過ごそうと決めたんです」


見れば清々しい笑顔。
彼女の中で何かが変わった。
気難しい神田と今までに見ない接近からコムイも二人が何かがあったのだと直に理解する。
何よりも時間が迫る中であの子供の笑顔がより明るくなっただけでも喜ばしく思う。


「あの子にとってもアレン君達にとってもこの上ない思い出になるから、少ない時間だけど
良い記念残すと良いよ」
「はい。色々ご迷惑お掛けしてすみませんコムイさん…」


軽く会釈すれば彼女は愛しい二人の元へと歩き出す。










それは別れまで残り3日との事だった…。









「ユウ!ユアン!見てみて、コムイさんからカメラ借りたから写真撮りましょうよ」
「記念になるし良いな」
「でしょう?」
「わ〜いしゃしん〜vv」


ちょっぴり未来の体験にも感じる3人とのやり取り。
リナリーを呼んでお願いをし、教団前で並ぶ3人の写真を撮ってもらう事にする。


「じゃあいくわよー、…はいチーズ!」


パシャ


「くすくす、神田のそんな顔初めて見たわ」
「!?う…うるせぇ!」
「ふふ、ユウ照れちゃって」


事情を知ったリナリー。
そんな神田の優しい瞳はきっとアレンとユアンのお陰なのだろうとこの微笑ましい時間をもう少し
長く見つめていたかった。

(なのに…もう時間が無いなんて…)

所詮ユアンは未来の人間。
この過去へと引き止めては未来が変わってしまう恐れがある。

(アレン君は分かってるからこそこうしてユアン君との証を頑張って作ってる。
一番別れを悲しんでいるのは彼女なのに…強いね、アレン君)

早くも現像しようとリナリーはカメラを兄へと渡しにこの場を離れる。









「じゃあお願いね兄さん」
「ちょっと現像器の調子が悪くてね…急いで修理はするから」








「ユアン…疲れて寝ちゃった」
「あれだけはしゃいでればな」

「すーすー…」


アレンの膝の上で気持ち良さそうな寝顔。
起こさない様そっと抱き上げ神田とアレンは自室へと移動する。

天使の寝顔

当にそう思う今の瞬間。
あと3日でこの寝顔が見れなくなるのかと思うとアレンは自然と目頭が熱くなるのが分かった。


「分かってたつもりなんですけどね…暫く一緒に過ごすと別れが辛いな…」
「だがコイツには未来の俺達が帰りを待ってる」
「…うん」


本当はあってはならない時空の歪み。
こうして過ごす時空を超えた人間同士の生活。
しかしこの事件が起きたからこそ互いの気持ちに気付かされた。
ユアンには感謝という言葉では言い切れぬ程。
今度は自分達が笑顔でこの子供を未来に見送らなくてはならない。
悲しんだ顔ではダメだ。

別れの後には出会いがあるから…悲しんではダメ。

分かってはいても零れる涙。
アレンは隠す様に神田の胸の中で声を押し殺しながら身体を震えさせた。

僕は忘れない。

今のユアンと過ごした日々を…。

















●言い訳●
次回はユアンとの別れです。


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