壱伍 帰郷







過ぎ行く時間。
それは時に残酷なもので…。

出会いがあれば別れがある事は理解していた。
ただ小さな幸せを送る毎日にその現実を見ないでいたのかもしれない。

アレンは散りゆく木の葉を眺めながらその瞳は虚ろでいた。
その片手には何かが映し出されている小さな紙切れを持ちながら…。


「アレン、分かってはいた筈だろ…」
「…はい」


ふとした瞬間力が抜けたその指から滑り落ちる紙切れ。
それは以前3人並んで撮った現像された写真。
だがたしかに3人を並び映し出されたその写真には仲つむまじく思わせる男女二人。
いた筈の子供だけがまるで最初からいなかったかの様抜け落ちている。
時空を超えた同志を神がそれを許さないと示しているのか…。



ユアンが未来に帰って2ヶ月目の事だった。



























「…予定通り本日は新月。運が良い事に天候もこの子が現れた日と同じ雨に厚い雲だ。
あと5分で0時になる…もう別れの時だ。何かメッセージがあれば今だけだよ?」


状況を把握していない子供を前に悲しい顔をしてはならない。
笑顔で…アレンはユアンの目線に腰を落とす。


「これから楽しい所への入口を開くから1番最初はユアンから行くんだよ?」
「…ママ達は?」
「もちろんユアンが無事入口に入れたら僕達も続いて行くから安心して」
「うんわかった!」


優しく抱きしめ、この存在を確かめる。
子供特有の暖かさ、もうこの温もりを抱きしめる最後だ。


「また…後でね」
「うん、ボク先に待ってるから!パパも後でね」
「あぁ、良い子にして待ってるんだぞ」

「1分前…そろそろ準備だよ」


ユアンを囲う様に左右それぞれ、イノセンスを差し出し発動する為集中を始め、30秒前と
なればコムイはカウントを始め、その場に緊張が走る。


「24・23・22・21・20…」


光を放つ二つのイノセンス。
それはこれまでにも見ない不思議な現象。
まるで当たり前の様に判っているのかそれぞれのイノセンスがまるで呼応している様だ。
カウントが終わりに近づくにつれ光は辺りを包む様大きく放たれる。
次第に光の中から更なる大きな光が現れ、それは未来に帰る為の扉なのだと直に理解出来た。
残り10秒を切ればユアンを光の強い場所へ誘導をし、笑顔で彼を見送る。


「5・4・3…」

「じゃあユアンまたね…」
「うん、行ってくるねパパ!ママ!」

「2・1・0!」


午前0時


狂いの内カウントが終える瞬間突如空から大きく激しい音と光が照らし出される。
その激しい雷光とイノセンスのユアンを包む光は眩しい程大きく、眩しさに耐えられなく瞑る瞼が
再び正常に戻った時には少年の姿がもうどこにも無かった。
それは無事未来へと戻っていった瞬間だと誰もが理解をするもののその誰もが悲しみに溢れている。


「本当に…帰ったんだねあの子」
「短い間だったのに何だかいるのが当たり前に思えてたものね…」


悲しみに満ちるリー兄妹。
しかしもっとも悲しみで身体を震えさせているのは他でもないアレンと神田。
アレンはけしてユアンが無事帰るまでは目の前で泣かぬまいと瞳に濡れる雫を懸命にコントロールを
していたが、もう今では溢れんばかりに神田の胸元で服に染み込ませている。


「これで…良かったんだよね、僕笑顔で見送れて…良かった」
「あぁ…よく頑張ったなアレン…」


悲しみを補う様抱きしめあう二人。
コムイとリナリーはその姿をしばし見つめると兄は妹の肩を取り、二人だけにさせようと静かにその場を
離れるのであった。



悲しみを物語るのか…
暗雲の空からは冷たい雨が二人に降り注ぎ始める。

















●言い訳●
ユアンが未来へと帰ってしまいました。
ですが次回で最終回では無いです。(おそらく)


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