肆 幼き子供の疑問
「やぁ、呼び出して悪かったね」
「何か方法見つかったんですか?」
「いや〜…えっと、何というか…」
何か伐の悪そうなコムイに対し、アレン達の頭の上には『?』マークが飛び交う。
すると小さく手を振りアレン達を近くへ呼び出すと小声で話こんできた。
「もしかしたら君はとっくに知ってるかもしれないけど…昨日神田君から話を聞いてビックリしたよ」
「ま、まさか…?!」
「彼が…父親なんだね?」
冷静を装ってはいるがその顔は苦笑に満ちていた。コムイに知られるのは別に困る訳では無いのだが
『神田から聞いた』という言葉の意味をアレン達は神田自身に知られてしまったのかと酷く青ざめてしまう。
「あ…!ごめんごめん誤解させる言い方しちゃったね、そうじゃなくてユアン君が神田君に突然『パパ』って抱きついた、
というのを彼から聞いただけなんだ。だから僕は彼を父親だって解ったんだよ」
それを聞いた一同は安心から安堵の顔を溢す。
「まったく心臓止まりそうになりましたよ!僕は絶対彼には知られたく無いんですから」
アレンは気づいていなかった。会話的どういったものか理解無くとも、その話から断片的に解る単語からそれが
自分に関わる事だというもの・そして自分の父親が話題に出てきている事だと側にいるこの未来の子供は
この雰囲気からあまり良い話なのでは無いとそれだけは理解した。
(知られたくナイって…何のコト?やっぱりボクいけないコトしちゃってたのかなぁ…)
父親に関して他所々しい母親、父親に関して苦笑する周りの人間にユアンは次第顔を俯いてしまう。
「ねぇママ…知られたくナイって…ボクの事?」
この一言が皆を凍りつかせる。そしてこの子供を目の前にどんな酷い事を話していたのかアレンは顔を青ざめ、
ユアンをキツク抱きしめる。
「ユアンごめんね!ごめんね…!違うの!そうじゃなくて…そうじゃ…」
これ以上言葉が浮かばない、例えユアンに自分の今の状況を話した所で到底理解出来ないであろう。
ここは過去の世界なのだと…。
迂闊だった…目の前にはまだ幼いとは言え大人達の言葉を少なからずとも影響を及ぼしてしまうと、
アレンはこの幼い未来の子供の表情に酷く慌てた。
「あのねユアン君、実は君のパパはすごーく大変なお仕事をお願いされちゃってとっても疲れちゃっているんだ」
突然のコムイの言葉にアレン達は彼を注目する。
「やっぱり大好きなお仕事だけど疲れすぎちゃってつい本当は怒りたくないのに怒っちゃったんだよ。
本当はユアン君に謝りたいんだって」
「…パパ『おつかれ』なの?」
「そう、だからママはパパの疲れが直るまではユアン君が悲しくて泣いちゃうってのを知られたく無いんだって。
それを知っちゃうとパパも泣いちゃうから」
「パパ泣いちゃうの?だったらボクパパのためならガマンする!そしたらパパ怒らなくなってもう泣かないんだよね?」
「うんそうだよ〜だから今はママと二人でパパに見つからない様に大人しくしてあげるんだよ?」
「わかった!ボクおとなしくする!」
上手くフォローしてくれたコムイに感謝だが嘘だとは言え、『神田が泣く』という言葉からモザイクのかかりそうな想像に
アレンとリナリーは噴出しそうな笑いを必死に堪える。
背中を向け震えるその姿、ユアンからは自分と同じ会えない悲しさをガマンしているのだと上手い具合に
勘違いしていたのであった…。
「ねーママ、いつになったらパパ遊んでくれる様になるかなぁ?」
「…そうだね、今のお仕事が忙しくなくなったら遊んでくれるかもしれないけど、もうちょっと我慢してね」
「うん…」
今はまだ伯爵の動きが無い為かコムイが上手い具合に仕事を調節してくれているお陰で、
アレンはこの事件が解決するまでは部屋でユアンの側にいさせてもらえる事となった。
だがそれはいつまでも誤魔化せる訳では無いのでコムイからしてみれば仕事が2倍になったと言える。
その負担を補う様に常にその側はリナリーがサポートしてくれているので妹馬鹿の兄からしてみれば逆に嬉しい状況の様だ。
「気が付いたらもうこんな時間か…」
時計を見れば間も無く0時を回ろうとしている。ずっと部屋内にいた事で時間の感覚が麻痺していた様だ。
この時間までユアンもよく寝ないでいれたものだと関心してしまう。
「ユアンもう眠いでしょう?…あ、そういえばユアンお風呂入れてあげなかったね!?」
今日でこの子が来てから2日目、流石に身体を洗わなくてはいけないだろうと立ち上がる。
元々アレンは人気が無くなる0時過ぎてから浴場へ通っていたが、ユアンに関してはすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「ボクお風呂ママと入りたーい!」
「じゃあ行こうか?」
「わーいw」
そして二人は誰もいないと思われる女風呂へ向かう事となったのだが、色々とありすぎて朝に聞かされたリナリーの
注意を覚えている訳も無かった…。
←BACK NEXT→