伍 発覚と事実
夜中で静まり返る建物内、昼間の忙しさが嘘の様だ。
やはり皆体力限界の仕事ぶりに寝れる時には寝るという事だろうか…。
この様子からして誰もいないと思われる女風呂へ入り込む二人は、さっそく子供の身体に湯をかけ身体を洗いだす。
そんな他人の声にを思わぬ人物が驚いていると誰も思わないだろう…。
(この声はモヤシと先程のガキ?!な…なんであいつ等がこんな時間にいるんだよ!)
その人物とは神田ユウ。
アレン同様、人のいなくなる時間を好むもう一人の人間であった。
広い温泉の様な風呂式のど真ん中にはまるで日本の風呂同様の大きな岩によって神田の姿は上手く隠されていた。
白い湯気の向こうに会いたくない人間が二人、湯船に浸かり立ての彼は別に悪い事などしている訳では無いのだが、
あの二人相手は厄介なので上手くこの場を逃げ切るタイミングを掴もうと様子を覗う。
「わーいvママと流しっこ〜♪」
「くすくす、ユアン嬉しそうだね」
「だってもう僕大きくなったからママと入るの『そつぎょう』しなさいってパパが言うんだもん…。でもボク知ってるんだ!
パパはママのおっぱい好きだからそう言うんだって」
「ぶっ!」
子供は言葉に容赦無い。しかもあの色事に興味なさそうな神田が自分の胸を好きだとは想像も付かない。
(…あいつ等何の話してるんだ??!)
白い湯気に見えない相手の会話からしてもアレンが女性だと知らない分尚更会話の内容が理解出来ない彼。
「でもね、ママのおっぱいは大きくてフカフカしてて気持ちいいからパパも触りたいんだよ絶対!」
この会話にどうつっこめば良いのか…アレンは苦笑しながらも子供の会話に口を挟めず耳を傾ける事にする。
「そういえばママはお花好き?」
突拍子も無く突然の話題につい『?』を飛ばすアレン。まぁ子供の言う事なのだから別に可笑しくも無い。
「うん?好きだよ」
「じゃあパパのお花も好きなんだよね?パパのお花って何か面白いね」
あの神田が花を育てるなど想像も付かない、その事実でさえアレンは驚いてしまう。
「お水にプカプカ咲いてて何だかお舟みたい」
その話の特徴から一番に食いつくのは紛れも無く神田自身。瞬時に思い浮かべる自室内の花の特徴そのままであるのだから…。
(何故あのガキが知っている!誰も知らない筈だぞ?!それとも俺の思い違いか…?)
「それって何て名前のお花?」
「うーんとねー…『はす』ってパパが言ってた。もう自分にとって『ひつよう』のないお花だけど大切な『おもいで』が
あるから大事にしてるんだって」
「へぇ〜」
アレンにとってはどうって事も無い話だが神田にとっては違う事だった、『あの人』を合間見えるまでの希望であり大切な花。
この教団の人間には一切話してもいなければ部屋にも入れた事さえ無いのだからあの子供がそれを知っている
事がありえる筈無い。
(何者なんだ!あのガキは!!)
コムイからはアレンの『弟』だと聞いていたが、次第にその話でさえ疑わしく感じ取ってしまう。
するとその会話を中断させる様な形で新たな第三者が浴場の扉の後ろから語りかけてきた。
「アレン君入ってる?!」
その声の持ち主はリナリー・リー。
「あ、入ってますよ。どうしたんですか?」
「洗ってる途中にごめんね!兄さんが実はユアン君の事で何かわかりそうなんだって。
だからちょっとユアン君借りたいんだけど良いかしら?」
突然の出来事だがこのコの事で判った事があるのであれば断る理由は無い。
ある程度洗い終えたユアンを彼女に引き渡すと着替えを済ませ、コムイの元へと移動していった。
独りになってしまったアレンは漸く自身の身体を洗い始めるのだがその背後から近づく人物に未だ気付きもしないでいる。
泡立てるタオルで身体を磨いている最中、それは突然起こった。
「おい」
突然の声に驚き、振り向けばそこにはいる筈の無いと思われた人物が背後すぐに立っている。
「?!な…なんで…」
「お前等が後から入ってきたんだ、先に入ってる俺に文句を言う筋合いなんかねぇだろう」
硬直するアレンに対し、神田は不機嫌極まりないと言う顔で腕を組む。
そんな神田が聞こうとしていた質問をする前に視線が入った物は紛れも無くアレンの身体。
「?!! お…お前女だったのか?」
「!?」
今更の所で隠しても意味は無いのだが、目の前の男に隠す様象徴する部分を腕で塞ぐ。
(まさか女だったとは…。否、女と言う方が納得いくな)
細い身体・白い肌・女みたいな顔付き・何かしらに甘い性格…思い当たる全てを女性だという理由に置き換えれば納得がいく。
だがしかし今はそんな事を思うより先、聞かねばならない事が沢山あった。
彼女の白い手首を掴み取れば、自分に引き寄せ…
「あのガキは何者だ!!」
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