本当はこの人の顔をちゃんと見て無かった。
とても綺麗な容姿、きっとモテるんだろうな…。


「…どうした?」
「え、あの…綺麗だなって」
「何が?」
「顔」


あまりにも直接的な言葉にアスランは思わず笑ってしまう。
もちろんシンは顔を真っ赤にして自分の言葉に対して後悔する。


言わなきゃ良かった…恥ずかしい。


「…キスは、ちゃんと好きな奴にしてもらった方が良いだろう?」
「アンタが良い…」
「そろそろ『アンタ』は止めてもらっても良いかな、シン?」
「あ…えっと…」
「『アスラン』で良いよ」


すごく優しい顔。
この人にキスされたら…きっと…


のめり込んでしまうかもしれない。


でも…


今は自分だけの時間。


「アスランに…キスしてもらいたい」
「クス…了解、お姫様」


最初は優しい、軽く触れるだけのキス。
次はお互いの気持ちを確認するかの様な長いキス。


キスがこんなにも気持ち良いと想うのはこの人の所為?


すると相手の舌がキスしたまま自分の歯並びをなぞる。
自然に口を開き受け入れ、探る口内がとても熱く感じた。
うっとりしてしまう程濃厚なキスにシンは身体が震える。


この人、キス巧いんだ…すごく気持ち良い。


漸く唇が離れるとシンは脱力してぐったりしていた。


「これでダウンしてたらこの先保たないかもしれないぞ?」


悪戯っぽく、そして挑戦的。
そんなアスランの言葉にシンも負けずも劣らず、


「アスランも行為に久しぶりすぎて腰痛めるなよ?」
「言うねぇ」


お互い顔を見ながらクスクス笑う。
他から見れば恋人同士の様…。
そして、耳・首筋・鎖骨と軽く・そして甘いキスを与えながらシンの服を脱がしていった。
羞恥に肌をうっすら紅く染める姿はとても愛らしかった。
素直に受け入れる彼女は本当に先程拒絶していたと思えない。
だが、ここでふと思う事があった。
今まで接してたシン・アスカと違和感がある事を。
そう自分に似ている。
偽装して生活する自分と。
そんな疑問にアスランはシンに問う。


「君は本当に『シン・アスカ』?」
「!?…何で?」
「嫌な思いさせたらすまない、ただ…先程までのお前と少し違う感じがしたから」
「…」


気が付かなかった、いつの間にか自分は『マユ』に戻っていた。
今は『シン』の姿でいる必要は無いから。


「…本当はアスランと一緒なんだ」
「俺と?」
「自分は『シン』じゃない、『シン』は死んだ兄なんだ。自分はその兄に成り代わってた…成り切ってるつもりだったけど
勝手なイメージを作ってただけかもしれない」
「本当のお前を教えてもらえないか?」
「本当の名前は『マユ・アスカ』」
「『マユ』か、こちらの方が今のお前にしっくりくるな」


自分を曝け出す。
今だけは『マユ』に戻れる。
昔の自分に…。


「ずっと…自分を隠して生きていた。もしかしたらこの先も偽って生きていたかもしれない」
「自分が言うのも何だが…ずっと偽るのは辛かったんじゃないのか?」
「うん…本当はずっと不安で怖かった。兄に代わり、本当に戦争終わらせる為に何と戦えば良いのか…
本当はそれを探す為に兄が希望していたザフトへ…でも、家族を失った怒りがどうしても強くなってオーブを憎まないと
悲しみから狂いそうで仕方が無かった。本当はこの戦争がいけないと判っていた筈なのに…」
「マユ…」


マユは自分と同じであった。


『何と戦えば良いのか』


だからこそ『キラ』に近い存在、そして自分にも似ていると。
彼女に惹かれた本当の理由が判った。
強く抱きしめた。
彼女の家族を失わせたのが自分は関係無いとは言えない。
家族の失う気持ちは一番知っている、彼女のオーブを憎む気持ちもよく判る。
嘗て自分が母を失いナチュラルを憎んだ時と同じ。
本当は判っていた。
ナチュラルだけが悪い訳では無い、悪いのはお互いの溝深めていった一部の人間と権力があった父によるものであるという事に。
それでも憎まないと悲しみから立ち直れなかったから…そして同じ悲しみによって父は権力を以って過ちを犯してしまった。
それを本来止めなくてはいけなかったのは息子の自分であって、最悪の状態を止められなかった自分にも同罪と言えるだろう。
だからこそ…彼女の気持ちが判ってしまう。
謝罪を込めて抱きしめられずにはいられなかった。


「アスラン…俺の為に泣いてくれるの?」
「…っ…」
「ありがとう…」





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